今週のお題「チョコレート」
カサイはこの日、朝から路面店の行列に並んでいた。
前から女性、女性、女性女性女性と続いてカサイ、そして後ろはまた
女性、女性、女性女性…ずっと女性だ。
皆が何を買い求めているのかと言うと期間限定のチョコレートだった。
「並んでまで食いたいほどのものか?」
そうぼやいたカサイを前に並んでいたご婦人が振り返り睨みつけた。
これにはさすがのカサイもバツの悪そうな顔をした。
今の発言からも分かるように、このチョコレートはカサイが望んで購入しようとしているものではない。
誰のお望み品なのか。それは2/14に誕生日を迎えたセディの頼みであった。
「昨日、新聞に出てたんだけど、この刑務所の近くのカフェで限定品のチョコレートが販売されるみたいなんだ。別に欲しいとは言わないけど、あれば今抱えている事件の解決スピードがあがるよ、間違いなくね」
死刑囚様にそう言われてはカサイも仕方がないと腰を上げるしかなかった。
なんと言ってもただ死を待つ死刑囚とは違うのだ。
犯罪心理学を得意とし、トライモント市警本部の事件解決率の高さに貢献している特別な死待ち人。
何よりもカサイの存在する理由となっている男なのだから。
そうして朝からカサイは険しい顔でチョコレートを買いに来ていたのだ。
だが、場違いもいいところだ。どうも居心地が悪かった。
それでも何とか耐え抜き、昼前にはセディの望んだチョコレートを購入する事ができた。
それを持って甘い香りと化粧品の匂いが充満するカフェからそそくさと撤退するのだった。
◇
刑務所の面会室でいつものようにセディと対峙したカサイは、紙袋ごとセディへと投げ渡した。
「どうして君はそう乱暴なの?」
「いいから早く開けろ」
カサイも限定品のチョコレートがどんなものなのか早く知りたかったのだ。
セディはやれやれと肩をすくめると丁寧に包装紙を外し、小さな箱を取り出した。そして、ゴールドの細めのリボンを解くと……
「はぁ?これが限定品か?普通だろ」
「見た目はね。でもチョコレートなんて見た目はどれも茶色くて、あるいは白くて……こんなものじゃない?」
「ひとつくれ」
そう言ってカサイは自分で手を伸ばし、チョコレートを箱からつまみ上げると口の中へ放り込んだ。
「甘いな」
「それだけ?」
「こんなものの為に俺は朝から飯も食わずに並んだのか!?」
カサイには何が限定品であるのか、何が特別であるのか、何一つわからなかった。
「君に感想を求めた僕が愚かだったよ」
そうしてようやくセディが口の中へチョコレートを運んだ。
味わっているのだろうか、しばらく黙っていた。
「何が普通のものと違う?」
カサイが待ちきれず尋ねると、セディはようやく口を開いた。
「うん、確かにただのチョコレートだね。だけど口溶けが違うような気がする」
「気?気がするだけか?なんかもっとあるだろ?ないのか?」
「ないよ、でもいいじゃない」
「よくないだろ!せめて喜べ、それが礼儀ってもんだろ」
「喜んでるよ。ありがとう、トール」
「……そうだな、お前に何かを求めた俺が愚かだった」
「チョコレートひとつで互いの愚かさに気がつけたのなら、君の失った時間も無駄じゃなかったね」
「勝手に言ってろ!」
カサイは誓った。
来年は絶対にその辺のスーパーで買える安いチョコレートにすると。
しかし、そんなカサイを見透かしているセディは、来年も自分が生きていると信じているカサイを笑うのだった。
珍しく穏やかな一日でした。
バレンタインの思い出
ちなみに私のバレンタインデーの思い出は、運び屋。
「A君にチョコを渡して欲しい」
「B君にチョコを渡して欲しい」
お金(500円ほど)を頂いて運び屋をしていました。
銭の稼ぎ時ですね!
ただ一度、ミスを犯してしまいまして全校一斉下校のタイミングでA君にチョコを渡すことになり、全校が見ている前で渡してしまったと言うね(笑)かなり騒然としてました。
私「こんなとこですまん!チョコや!」
A君「え、ええ!?」
私「違う、違う!違うで!違う!」
もう必死の否定ですよね(笑)明らかに勘違いされていたので。
このあともちろん依頼者の女子からは「なんであんなタイミングで渡すのか!」と叱られました。
そのあとは男子ばかりの学校となりまして、女子からの依頼はなくなるわけですが、友チョコの交換など良い思い出が詰まっています。
男子も女子も大人も子供もチョコレートは好きだと思うので、贈り合うイベントは滅びないで欲しいと思います。
(今年は0個)
サスペンスBLドラマゲーム『Loose Lips(SIDE:foggy)』